カニやクモの動きから見る「変な歩き方」の魅力(動物の歩行の不思議)
「カニはなぜ横に歩くの?」「クモの足って、どうやって動いてるの?」——そんな疑問を感じたことはありませんか?動物の中には、一見“変”とも思える歩き方をする種類がたくさんいます。けれども、それらはただのクセではなく、生き残りや環境適応の知恵でもあるのです。本記事では、そんなユニークな歩き方をする動物たちを分類してご紹介します。
跳躍型:変な歩き方をする動物の跳ねる移動法
カンガルーの跳躍が示す省エネ性能(跳躍する動物の知恵)
カンガルーの跳躍歩行(saltation)は、乾燥地での長距離移動に最適な手段です。強力な後ろ脚のバネ作用により、一回の跳躍で多くの距離を稼げるうえ、接地時間が短いため熱い地面との接触を最小限に抑えられます。さらに、腱をばねのように使うことでエネルギー消費を大幅に抑えているのです。

カンガルー(マクロポス属)
オーストラリア固有の有袋類で、強靭な後肢と長い尾を持ち、跳躍移動が特徴です。草食性で、広大な草原や林縁に生息します。群れで行動し、母親の育児嚢で子どもを育てます。
ウサギの素早い逃走と方向転換(変な動きに見える防御戦略)
類似の跳躍型にはウサギもいます。ウサギは後肢が非常に発達しており、天敵から素早く逃げると同時に、不規則な方向転換で相手を惑わす能力を持っています。
這行型:動物の変な歩き方に見る足なし移動術
ヘビとミミズのうねる移動術(脚なしでも動ける工夫)
ヘビは脚を持たない代わりに、体全体をくねらせて前進します。このうねり(undulatory locomotion)は、地面の凹凸や摩擦を巧みに利用する技術です。ミミズは筋肉の収縮によって環境中に圧力をかけて進みます。
イモムシやアメフラシの粘り強い前進法(変な歩き方で進む動物たち)
イモムシは「ルーピング」と呼ばれる動きで、前脚と腹脚を使って体を湾曲させながら移動します。腹脚で地面に吸着しながら進むことで、葉の裏や枝の上など不安定な場所でも滑らずに移動できます。さらに、アメフラシのような軟体動物は、粘液を分泌しつつ筋肉の波状運動を使って進み、移動と身体の保護を両立しています。

アメフラシ(Aplysia属)
軟体動物門・後鰓類に属する海産の巻貝で、貝殻は退化して体外に見えません。粘液を分泌して敵を回避し、海藻を主食とする草食性。日本沿岸の潮間帯や藻場などに生息します。
平行歩行型:変な歩き方をする大型動物の歩行スタイル
キリンやインパラに見る左右の協調(動物の歩き方の多様性)
通常の哺乳類は対角線の脚を交互に動かしますが、キリンやインパラは左右の脚を揃えて出す「平行歩行(amble)」を行います。これは走行中の体の左右ブレを軽減し、首が長いキリンにとってはバランスを保つのに有利です。

インパラ(Aepyceros melampus)
アフリカのサバンナや疎林に生息する偶蹄類で、ガゼルに似た優雅な草食動物です。しなやかな体と跳躍力に優れ、捕食者から逃げる際にはジグザグに走りながら最大で2m以上の高さを跳びます。オスには美しい螺旋状の角があります。
ダチョウやゾウの安定性への進化(動物の変な歩き方と体格)
ダチョウもまた、大型であるがゆえに、安定性を重視した歩行様式に進化しました。同様に、ゾウも四肢をゆっくり交互に動かす独特のリズムで歩きます。体重を均等に分散することで、巨大な身体を無理なく支えているのです。ちなみに、ゾウと同じく大型哺乳類であるウマと比較することで、その歩き方の違いや骨格構造の違いがより明確に見えてきます。詳しくは『ウマとゾウの骨格比較からわかる、歩き方の意外な違い』をご覧ください。
特殊構造型:構造からくる動物の変な歩き方
クモの水圧による関節操作(歩き方の仕組みがユニークな動物)
クモは足の関節を筋肉ではなく「水圧」で動かすという特殊な仕組みを持ちます。これにより、高速で静音性の高い動きが可能になり、獲物に気づかれずに接近できます。こうした生き物の構造的な工夫については、『動物の骨格が語る、自然が作り上げた究極のデザイン』でも詳しく紹介されています。
ヤドカリやカモノハシの独特な移動(変な動きの理由)
ヤドカリは左右非対称の身体を活かし、巣穴に素早く戻るために「横行(サイドステップ)」を採用しています。カモノハシは水中では前足の水かきをパドルのように使って泳ぎ、陸上では趾行(つま先歩き)でやや不器用に移動します。この二重構造は、半水生という生活様式に最適化された結果です。

ヤドカリ(Paguroidea上科)
十脚甲殻類で、柔らかい腹部を保護するために貝殻を背負う特徴を持ちます。浅い海の砂地や岩場に生息し、雑食性で死骸や藻などを食べます。成長に応じて貝殻を交換するユニークな生態を持ち、陸上性の種もいます。
ヤマアラシの防御に適した歩行様式(変わった歩き方の意味)
ヤマアラシは重心を低く、外側に広がった足で安定感を保ちながら歩行します。これは防御姿勢をすぐ取れる体勢を維持するためとも考えられます。
例外型(人間):変な歩き方にも見える二足歩行の真価
二度の上下運動による効率的な歩行(人間ならではの歩行法)
人間の歩き方には、他の動物とは異なる「二度の上下運動」があります。足が地面に接地している間に体が下がり、蹴り出しで再び上がるという二段構造です。これはエネルギー効率を高め、長距離移動に適した進化形態とされ、狩猟採集生活の背景を物語っています。
身体構造と高度な運動制御の融合(人間の変な歩き方の理由)
人間の歩行は「直立二足歩行」という点でユニークです。これは骨盤の形状、背骨のS字カーブ、かかとの構造、アキレス腱のばね機能など、全身の構造的適応によって実現されています。重力に逆らってバランスを保ちながらの歩行は、他の動物には見られない高度な運動制御であり、脳の発達とも密接に関係しています。加えて、リズムある歩行が内臓への負担を減らすなど、生理学的なメリットも多いのです。PT(理学療法士)の視点から見ても、人間の歩行は極めて高度かつ繊細な協調運動の集大成といえるでしょう。
動物の歩き方に見る命の知恵(変な歩き方の意味を探る)
動物たちの「変な歩き方」は、どれもその生きざまや環境への適応を映し出すものです。ジャンプ、這い進み、平行に、横に、そして人間のように立って——どの歩き方にも、理由があります。次に動物たちを観察するときは、足元のリズムに耳を傾けてみてください。その一歩一歩に、命の知恵が刻まれているはずです。もしこうした適応がどのように“生存競争”と結びついているかに興味があれば、『生存競争とは?動物たちのサバイバル戦略と自然界のしくみを解説』もぜひご覧ください。
参考文献
クヌート・シュミット=ニールセン『動物生理学:環境への適応』東京化学同人
本川達雄『ウマは走る ヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』中公新書, 2024
岡良隆『動物の生理学 — 分子メカニズムと多様性 —』京都大学学術出版会