関節の「しまり姿位」と「ゆるみ姿位」の違いとは?
関節には「安定している状態」と「動きやすい状態」があることをご存じですか?
理学療法やリハビリの現場では、この2つの関節のポジションが非常に重要です。
本記事では、「しまり姿位」と「ゆるみ姿位」の違いについて、具体例とともにわかりやすく解説します。
これらの知識は、関節モビライゼーションや徒手療法に役立つ基礎として、必ず押さえておきたいポイントです。
しまり姿位とは?
● しまり姿位の定義
しまり姿位とは、関節面が最も密着し、靭帯や関節包がしっかりと緊張している状態です。このとき関節の安定性は最大となり、外力に対する抵抗力も高くなります。
この状態は多くの場合、関節の可動域の端に位置し、動きは制限されますが、その分安定性に優れています。
● しまり姿位の具体例
- 膝関節:完全に伸展した状態
- 足関節:最大背屈の位置
- 肘関節:完全伸展
- 顎関節:歯を強く噛みしめた状態
- 手指関節:完全屈曲
これらの姿位では関節が「締まって」おり、動きは抑制されるものの、安定した支持が求められる動作に適しています。
ゆるみ姿位とは?
● ゆるみ姿位の定義
ゆるみ姿位は、しまり姿位とは逆で、関節面の接触が最小となり、靭帯や関節包が緩んでいる状態です。このとき関節包の内圧が低く、関節の空間が最も広くなります。
この状態では副運動(accessory movement)が起こりやすく、関節モビライゼーションや整復操作に最も適しています。
なお、副運動とはどのような動きかについては、関節の基本動作に関するこちらの解説をあわせて確認すると理解が深まります。
● ゆるみ姿位の具体例
- 膝関節:約25度屈曲
- 肘関節:約70度屈曲
- 顎関節:軽く口を開いた状態
- 手指関節:軽度屈曲
ゆるみ姿位は柔軟性と可動性に優れ、関節の評価や治療時に重宝されます。
しまり姿位とゆるみ姿位の違いまとめ
しまり姿位とゆるみ姿位の違いは、関節の状態だけでなく、それが意味する臨床的な使い方にも現れます。
また、こうした関節姿位の成り立ちを構造的に捉えるには、関節面の形状に基づく法則についての基本知識も重要になります。

特徴 | しまり姿位 | ゆるみ姿位 |
---|---|---|
関節面の適合 | 最大限に適合 | 最小限の接触 |
靭帯・関節包の状態 | ピンと張っている | 緩んでいる |
安定性 | 非常に高い | 低い |
可動性 | 小さい | 大きい |
臨床的用途 | 安定性の評価 | 可動性・副運動の評価 |
臨床での活用ポイント
関節モビライゼーションでは、目的によって姿位の選択が重要です。
たとえば、関節の遊び(joint play)や副運動を評価・促進したい場合はゆるみ姿位を選びます。一方で、安定性のテストや負荷に対する強度を見る場面ではしまり姿位が適しています。
また、損傷のリスクについても注目ポイントです。しまり姿位では関節が固く安定している一方で、衝撃に対して柔軟性がないため、外力を吸収できず損傷しやすいことがあります。
● 関節損傷の具体例
例えば、膝前十字靭帯(ACL)の損傷は、膝関節がしまり姿位にある状態での外的な力(ジャンプの着地や切り返し動作など)によって生じることが多いです。しまり姿位では関節の逃げ場が少ないため、特定の外力に対して構造的に弱くなってしまうのです。

一方で、ゆるみ姿位であれば関節の余裕があり、ある程度の衝撃を吸収できるため、ケガのリスクは比較的低くなります。
よくある誤解とその真実
しまり姿位とゆるみ姿位に関する理解で、以下のような誤解が見られることがあります。
「ゆるみ姿位=関節に悪い姿勢」?
実は逆です。ゆるみ姿位は不安定に見えるかもしれませんが、関節モビライゼーションや評価においては最も適した姿勢です。可動性を最大限に引き出すには、このポジションが必要不可欠です。
「しまり姿位なら安全でケガしない」?
これも誤解です。しまり姿位は安定性が高い一方で、衝撃吸収性が乏しいため、強い外力が加わると靭帯損傷のリスクが上がります。安定=安全とは限らないのです。
「関節評価はどの姿位でも一緒」?
姿位によって評価結果は大きく異なります。特に副運動の評価は、ゆるみ姿位でなければ適切に判断できない場合が多いです。
こうした誤解を避けることで、より正確で安全な臨床判断が可能になります。
まとめ:違いを理解して関節を守ろう
「しまり姿位」と「ゆるみ姿位」の違いを理解することは、関節の構造や動き、そして安全な治療の土台になります。
理学療法や運動療法を行う上で、これらの知識は欠かせません。関節の状態を正確に把握し、目的に応じた適切な姿位を選ぶことで、効果的で安全なアプローチが可能になります。
実際の臨床やトレーニングの中で、ぜひ意識して活用してみてください。
参考文献
- 市橋則明 編『身体運動学―関節の制御機構と筋機能』メジカルビュー社, 2017年
- 小柳磨毅・山下協子・大西秀明・境隆弘 編『PT・OTのための運動学テキスト 第1版補訂2版』金原出版, 2023年
- 医歯薬出版編集『最新理学療法学講座 運動器理学療法学』医歯薬出版, 2021年